スタインウェイを初めて弾いたとき

2008年9月のある日、私はスタインウェイを指弾するためにとあるスタインウェイサロンへ出かけた。そして、スタインウェイを初めて弾くことになった。鍵盤に触れ、音を鳴らした瞬間、私はその音色、響きの良さに圧倒される。

練習室には二台のフルコンサートピアノが置かれてあった。私は二台を弾き比べ、音色が明るい方を弾くことにした。素晴らしい。それは少し弾いただけでも想像を絶するサウンドだった。まさかこんなにすごい音が鳴るなんて思ってもみなかった。初めてスタインウェイを弾いた。今までの自分のピアノ人生が何だったのだろう、と思うくらいの衝撃だった。何とも言えない感触の鍵盤、それはほんの小さな繊細な音まで表現できる。低音から高音に至るまでの見事な響き、倍音。どれを取っても確かに一流品だ。まさにCDで聴いていた音だ。今まではCDで聴く音は加工された音だからまた違う、と思っていた。しかし、そうではなかった。元の音が素晴らしいから録音されてもああいう素晴らしい響きになるのだということがわかった。私は夢中になって、一時間の間に十曲ほど弾いた。至福の時間が過ぎていった。

ピアノを弾き終わった後、店の人にスタインウェイのことをいろいろと教わった。店の人曰く、ニューヨーク製のものは暴れ馬、ハンブルグ製のものは貴婦人の印象、ということだった。そして鍵盤のサイズがニューヨーク製のものの方が少し小さいらしい。JAZZにはニューヨーク製が使われ、クラシックにはハンブルグ製が使われることが多い、という。そのとき私が弾いたのはハンブルグ製だった。

店を出てからの帰り道、私はまだ呆然としていた。夢の中で狐に包まれているような気分だった。
DATを持っていって演奏を録音しておいたのだが、家に帰ってからそれを聴いて、また驚かされた。家のピアノを何度録音しても思ったようなサウンドにならなかったので、それはマイクが悪いからだと思っていたのだが、その日録音したものを聴くと何とイメージしていた音が録れていた。グランドピアノとアップライトピアノの違いとか、部屋の環境の違いということもあるだろうが、やはり決定的に音色と響きが違う。私は何度も自分で弾いたスタインウェイの音を聴き返した。

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